人工哺乳をする上で哺乳量をどの程度に設定するかは子牛の発育を大きく左右します。
一度は「強化哺乳」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。
私の個人的な意見ですが、和牛であれF1であれ乳牛であれ、基本的に強化哺乳はするべきと考えています。
今回はその理由と、実施する上での注意点、次回には和牛の場合の具体的な給与プランをお話しようと思います。
強化哺乳とは
現在、人工哺乳の普及に伴い哺乳の方法にも多様性が生まれています。
一般的に強化哺乳は子牛への最大哺乳量を粉量で一日あたり1,000 g以上 、液量で7リットル以上とする手法とされています。
従来法とされる給与法では、粉量で400~600 g とされていることが多いです。
代用乳の袋の裏に書かれているのはたいていこの量です。
ちなみに個人的には粉の量で1,200~1,500gくらいまで給与するのが合理的と考えています。
それ以下では哺乳期の栄養不足がみられる場合があるし、それ以上は離乳が難しいからです。
私の診ている範囲では、従来法では哺乳期の栄養不足は逃れ難いように思います。
ミルクの量が足りない農場では、慢性的な肺炎や下痢、発育不良の牛が多く見られます。
もちろん、固形飼料を早い段階で食い込ませて上手に乗り切っている農家さんもいますが、最近の子牛は出生時体重も大きくなっていますし、それに合わせて与える栄養も多くする方が無理がないでしょう。
強化哺乳のメリット
病気が少ない
強化哺乳をすると肺炎をはじめとした病気にかかることが減ります。
哺乳期の栄養状態は子牛の免疫に関与します。
子牛が空腹で常に鳴いているような場合、ストレスからコルチゾルが分泌され、免疫力を大きく下げることが分かっています。
ストレスをできる限り排除することが病気の発生抑制の第一歩といえるでしょう。
哺乳期の発育が良い
私も和牛で実験をしたことがありますが、単純に哺乳量を増やすと哺乳中の発育がよくなります。
実験の中では、90日間哺乳した時点で、従来法の牛よりも平均27 kg 大きい牛になりました。
単純な話ですが、栄養を多く摂らせればその分大きく成長するということです。
じゃあ強化哺乳すればいいのね、となりそうですが、もちろん強化哺乳にも注意点があります。
ここからは、強化哺乳の注意点を解説したいと思います。
強化哺乳の注意点
離乳は難しい
子牛は離乳するとき、大きくなった体に対してミルクだけでは栄養を摂りきれないという飢餓感から固形飼料(スターターや乾草)の摂取をはじめます。
代用乳を多く与えると子牛が満足してしまい、固形飼料の摂取をしなくなります。
正確には、より大きく成長するまで食べ始めないので摂取するタイミングが遅くなります。
これを知らずに従来法と同じように離乳すると子牛は極度の栄養失調の状態に陥ることになります。
そのため離乳の時期を遅らせたり、固形飼料を食べさせる工夫をする必要が出てきます。
手間もその分増えるので従来法よりも人的コストのかかる手法といえます。
下痢に注意
哺乳期の下痢対策には以下の注意点を守らなければなりません。
- 哺乳ハッチは移動のたびに洗浄・消毒する
- 代用乳は強化哺乳用のものを使う
- 代用乳の濃度を厳守する
- 急に量を増やさない
ハッチの洗浄は病原体対策です。
これは強化哺乳に限った話ではなく、従来法で哺乳している農家さんでも同じことが言えます。
前の子牛の便に含まれている下痢の病原体(ロタウイルスやコクシジウムなど)がハッチに残っていると、次の子牛が入ったとき早々に濃厚接触することになります。
必ず洗浄と消毒をするようにしましょう。
ハッチの下にキャスターを付けて可動式にすると外へ出して水洗いし、そのまま乾燥までできるのでおすすめです。
代用乳の種類ですが、最近では強化哺乳用のものが多く販売されています。
タンパク質を多く含み、脂肪が抑えられているのが特徴です。
脂肪が多く含まれる従来法用の代用乳は大量に飲ませると消化不良を起こし下痢をします。
濃度も同様で、たくさん飲ませるために代用乳の濃度を上げる方がいますが、個人的にはあまりおすすめしません。
濃いミルクを飲むと体内から水分が腸へ移動し、結果として子牛は下痢をして脱水状態に陥ります。
危険なので濃度は勝手に変更しないのが無難です。
また、ハッチには水を置いておきましょう。
脱水になる前に自分で水分補給をできますし、夏場には熱中症対策にもなります。
いかに強化哺乳とはいえ、急に量を増やすことは下痢の原因になります。
急激な胃の拡張は腸の蠕動運動を促進し、ミルクの腸内通過を速めます。
十分に水分が吸収される前に腸を通過すると、水分を含んだ便、つまり下痢となって現れます。
これを避けるためには、個体によってミルクの量を調整しながら増量することが求められます。
どんどん飲める子牛とそうでない子牛、状態をみながら増量していくことが重要です。
代用乳代は余計にかかる
経費は余計にかかります。
一日あたりに与える代用乳の量が増えるのはもちろんのこと、強化哺乳用の代用乳は単価がやや高く設定されています。
また、固形飼料の食い込みが遅くなりがちなので、哺乳期間も長くなります。
目安としては1頭あたり2万~3万円ミルク代として余計にかかることになります。
しかし、その分発育の良い子牛を生産できると考えればコスト分の効果は十分あるといえます。
私の実験でも、子牛市場での27 kg の体重増加はミルク代以上に収入を増加させる結果となりました。
今の状態で満足しているなら変えるべきではない
強化哺乳をするそもそもの目的は、子牛の病気を減らすか、発育をより良くすることです。
自身の農場がこれらをすでに達成している、またはこれ以上求めていないというのであれば強化哺乳はすべきではありません。
具体的に子牛市場での成績でいえば、全体の平均DGを上回っている、子牛の死亡率でいえば3%未満で推移しているという状態です。
子牛の育成がうまくいっており現状に満足しているのに、なんとなく強化哺乳をはじめてしまうと、かえってバランスを崩してしまい子牛の成績が悪くなってしまう可能性が高いです。
自身の現状や目的と相談して導入を検討すると良いでしょう。
強化哺乳を始めてすぐにはうまくいかない
これは人工哺乳の向き不向きというところでも言及しましたが、強化哺乳もはじめてはじめのうちはうまくいかないことが多いです。
最初にうまくいかないと面白くなくてすぐにやめてしまう人もいますが、誰もが失敗を繰り返すうちに自分なりの方法を確立していくものです。
次はどうしたらうまくいくのか実験と検証を重ねることが必要です。
まずは半年くらいを目安に継続してみることをおすすめします。
まとめ
今回は子牛の強化哺乳について解説しました。
私は基本的に強化哺乳はするべきという立場ですが、注意点も多く、実は従来法の方が合っている農家さんもいらっしゃいます。
自身に置き換えて導入を検討していただければと思います。
次回は和牛での具体的な強化哺乳の方法についてお話します。
今回は以上です。
ありがとうございました。
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