プログレッシブ・デイリー(Progressive Dairy)というサイトの中から面白い話題がありましたので紹介したいと思います。
記事のタイトルは「Calf rumen development: Is roughage beneficial?(子牛の第一胃発達:粗飼料は有益か?)」というものです。
過去の数ある文献を紹介しながら、第一胃乳頭に着目して粗飼料は第一胃を発達させるのか、という内容です。
今回はこの記事の内容についての解説と、それに対する私なりの意見や補足をお話できればと思います。
それでは参りましょう。
引用元記事の結論
この記事の結論をざっくりまとめると、
「粗飼料は第一胃乳を発達させるのには役に立たない。濃厚飼料を多く摂取させよう。」というものです。
「粗飼料こそ第一胃を発達させるんじゃないの?」と思った方も多いのではないでしょうか。
なるべくわかりやすく解説していきますので最後まで読んでいただけると幸いです。
はじめに前提知識
VFAとは?
VFA(Volatile fatty acids; 揮発性脂肪酸)とは、牛の最も重要な栄養源の一つです。
第一胃内微生物が飼料のセルロースやデンプンなどを分解したときに発生します。
VFAには酢酸、酪酸、プロピオン酸があり、第一胃内で産生されるとそのまま胃の粘膜から吸収されます。
第一胃乳頭とは?
第一胃乳頭とはその名の通り、第一胃の粘膜にある突起のことです。
乳頭が存在する目的は、胃の表面積を広げることでVFAをはじめとした栄養素の吸収を効率的に行うためです。
ちなみに人の小腸にも似た構造(腸絨毛)があり、これも同じく表面積を広げることが目的です。
一方で人の胃にはこのような構造はありません。
なぜなら人の胃は食べ物を消化することが目的で、吸収はほとんど腸に任せているからです。
話を牛に戻しましょう。
子牛の第一胃も生まれたばかりのときには乳頭という構造はありません。
成長の過程で発達していくのですが、どの飼料が発達に貢献するのかというのが今回のお話です。
第一胃の発達の要素は乳頭だけではない
引用元の記事では第一胃乳頭に着目して第一胃の発達を議論していますが、第一胃発達の指標とされている要素は第一胃乳頭以外にもあります。
第一胃の発達を議論する上で重要視される要素は以下の4つです。
第一胃容積の拡大は乾草の給与により促進され、後述しますが子牛自体の成長にはあまり重要ではないとされています。
また、月齢が進むとともに勝手に発育いていく部分でもあります。
反芻能力は飼料の種類に影響されやすい項目といえます。
乾草などの難消化物の給与により刺激され、反芻機能が備わっていくことが分かっています。
第一胃微生物は母牛の唾液から、飛沫や飼料に付着する形で子牛の口に入り、胃内で細菌叢を形成するとされています。
飼料の種類には依存せず、不明な点も多い領域です。
内容の解説
粗飼料と第一胃の発達
結論から言うと粗飼料は第一胃乳頭の発達には大きく役立ちはしません。
一方で第一胃の容積を大きくするのには役立つようです。
ここで注意が必要なのが、第一胃が大きいからといって食べる量が多くなるわけではないことです。
また乾草を多給された子牛では、胃や腸に草が充満するため見かけの体重は大きくなるものの、実際は体が大きくなっていないとこの記事の著者は指摘しています。
ミルクと第一胃の発達
ミルクも第一胃乳頭を発達させることはありません。
ミルクの場合は第一胃をショートカットして第四胃に入るため、第一胃の容積も大きくなりません。
あくまでも哺乳期間中の栄養源であり、離乳期の給与はほどほどが良さそうです。
真に第一胃を発達させるのは濃厚飼料
ここまでの話でわかる通り、濃厚飼料(スターター)が第一胃乳頭を発達させるのに最重要です。
ではなぜ濃厚飼料が第一胃を発達させるのか。
答えはVFAの産生にあります。
VFAを第一胃から吸収する刺激が第一胃乳頭を発達させます。
第一胃内において、粗飼料、濃厚飼料はともに最終的にVFAを産生します。
しかし、粗飼料は子牛にとって消化するのが難しく、VFAを産生することなく腸管内に充満してしまいます。
一方で濃厚飼料は易発酵性のため、豊富にVFAを産出することができます。
その結果、多くのVFAを得ることのできた濃厚飼料摂取子牛は第一胃乳頭が大きく発達します。
実験では、全身の発育についても粗飼料を多く食べた子牛よりも濃厚飼料を多く食べた子牛が良好な成績を残すことができるという結果になっています。
補足:とはいえ嗜好性が低ければ意味がない
ここからは私がこの記事を読んで思ったことを補足したいと思います。
参考にしていただけると幸いです。
ここまで、「濃厚飼料を多く与えて第一胃を発達させよう!」みたいな趣旨で話してきましたが、こんなツッコミが入りそうです。
「スターターの嗜好性が悪くてそもそも食べないよ!」と。
私もそう思います。
哺乳のときに口に突っ込む、エサ箱を浅くする、ペアハッチにする等、様々な対策が考えられてはいるものの、やはり乾草よりも嗜好性に劣るスターターを十分に食べさせるのは難しいものです。
私個人的には、
「やっぱりある程度乾草も食べさせた方がいいよね」という意見です。
ここで大事なのは、ただ乾草とスターターを並べて置いても乾草ばかり食べてしまうので、両方口に入るよう工夫することです。
つまり、乾草とスターターをしっかり混ぜて給与するということです。
細かく切った乾草とスターターを選び食いしにくいように混ぜて給与してみましょう。
それでもはじめは草の部分を選んで食べますが、慣れてくると一緒くたに食べるようになります。
是非試してみてください。
ちなみに私は子牛用TMRをスターターと混ぜて給与する方法をおすすめしています。
TMR自体は粗濃比がおおむね1:1になるように設計されていることが多いです。
混ぜることにより濃厚飼料の割合が多くなり、草もはじめから細かく切ってあるから使いやすいです。
離乳から月齢が進むにつれてスターターの割合を減らし、TMRを中心に給与するとスムーズに飼料を移行できます。
まとめ
今回の話をまとめると以下の通りです。
- 引用元の要約:離乳期の子牛には濃厚飼料を多く食べさせよう
- 粗飼料は容積を大きくするが、乳頭を発達させない
- 濃厚飼料は容積はそれほど大きくしないが、乳頭の発達に貢献する
- 濃厚飼料を多く食べさせると体重の増加も早い
- 補足:とはいえ草も使いようによっては利用価値あり
- スターターをたくさん食べさせるのは難しい、TMRと混ぜるのがおすすめ
何かの参考になれば幸いです。
今回は以上です。ありがとうございました。
コメント