分娩は子牛が出ても終わりではありません。
その後のケアを怠ると子牛のその後に大きな悪影響を与える可能性があります。
夜中の分娩などでは早く家に帰って寝たい気持ちになるのは分かりますが、良い子牛生産のためにもうひと頑張りしましょう。
今回の記事では、子牛が生まれたらまず初めにやることを取り上げます。
ぜひ参考にしていただけると幸いです。
呼吸の確認
まずは子牛が呼吸をしているか確認しましょう。
通常の分娩の場合、子牛の臍帯(へその緒)は娩出されると同時に切れます。
すると体内の酸素供給が臍帯経由から肺呼吸に切り替わります。
つまり、母牛の血液に含まれる酸素をもらっていた状態から、自分の肺で酸素交換をするようになるのです。
生まれ落ちてから、肺が空気を吸い込み膨らむまで通常は数秒で済みますが、羊水が気道に詰まっている場合にはうまくいかないときもあります。
自力で頭をあげられるか確認
頭を上げているか否かは、酸欠や虚弱などの異常がないか判断するために大きな要素となります。
自分で首を持ち上げ、体を支えられているようであれば問題ありません。
喉で羊水がひっかかっているような呼吸をするときもありますが、羊水は体内に吸収されて徐々に呼吸も落ち着くはずです。
このような状態であれば首を振ってみたりくしゃみをしたりという行動もみられると思います。
逆に、体を横たえたまま、首を地面に投げ出しているようであれば危険な状態です。
呼吸の確認をしましょう。呼吸が弱い、止まっているようであれば人工呼吸器等を使い対処をしましょう。
呼吸が弱いときの対処法
呼吸が弱い、止まっているときの対処法は以下の4つです。
- 呼吸しやすい体勢に変える
- 人工呼吸器を使う
- 鼻の中をワラなどで刺激する
- (逆さ吊りにする)
呼吸しやすい体勢に変える
呼吸しやすい体勢に変える、というのは専門用語でいうと横臥の状態から伏臥の状態に変えるということです。
横臥とは、体の側面を地面につけ、足を投げ出している状態です。
一方で伏臥とは、牛が普段寝ているときの姿勢、腹を下にして足を畳んでいる状態です。
横臥の状態は自重で肺が圧迫され、呼吸のしにくい姿勢といえます。
必ず伏臥の状態に寝かせ、必要ならばワラを下に敷いて体を支えてあげましょう。
人工呼吸器を使う
人工呼吸器はここぞというときに役立ちます。呼吸が弱いときには以下の手順で使いましょう。
- 吸入側を使って気道内の羊水を取り除く
- 吹込側を使って肺に空気を送り込む
まずは羊水を取り除くために吸入側を使います。鼻先にセットし3回程度吸入して顔から離します。
これを3回程度繰り返したらそれ以上はあまり効果がないのでする必要はありません。
次に吹込側を使って肺に空気を送り込みます。
鼻先にセットしたら2回程度空気を送り込み、顔から離します。
こちらは何度も繰り返し行ってください。
子牛が自力で呼吸できるくらいまで落ち着いたらやめましょう。
鼻の中をワラなどで刺激する
ワラなどで鼻の中を刺激する目的は、くしゃみをさせることです。
くしゃみをすることで気管に入った羊水をある程度取り除くことができます。
呼吸をするときに喉がゴロゴロ鳴るようであれば試してみてください。
(逆さ吊りにする)
逆さ吊りの効果に関しては諸説あるのでカッコ書きにしてあります。
気道内の羊水を吐き出させることができるという人もいますが、吐き出した羊水はほとんど胃の中から出されたもので効果がないという人もいます。
むしろ、吐いた羊水が気道に逆流して余計に悪化させる、肺が圧迫されて余計に呼吸が苦しくなるとも言われています。
私自身はあまり推奨していません。
タオルで拭く
タオルで子牛を拭く目的は大きく以下の3つです。
- 体温の保持
- 呼吸の促進
- 初乳効果の促進
これらについて説明するためには「リッキング」について語る必要があります。
リッキング(licking)とは、直訳で「舐める」ことです。
母牛は本能的に生まれた子牛を舐め回すようプログラムされています。
その理由は、まさしく上に述べた3つ、子牛の体温保持、呼吸の促進、初乳効果の促進です。
これらは体表が乾くことや、血行が促進されることに起因します。
なお、口や鼻の周りに羊水が付着して呼吸しにくいこともあるので、そのときは初めに拭き取ってあげてください。
母牛がしてくれるなら放置でいいじゃないか、と言われそうですが、これらの効果をより確実に実現するためにタオルで子牛を拭くことは重要です。
なぜなら、母牛が必ずしも熱心に子牛の世話をしてくれるわけではなく、よしんば必死に舐めてくれたとしても、子牛の乾燥についてはタオルで拭いてあげたほうが圧倒的に早いからです。
この点は特に冬期間の分娩で重要です。
ある程度乾いたら一度母牛に預けてみましょう。
母牛が子牛を舐めてくれるようならあとは任せてしまっても大丈夫です。
このとき、子煩悩な母牛の場合は人に対し攻撃的になることもあるので、母牛を放すときは分娩房から人は出るようにしましょう。
子牛に無関心な母牛の場合は人の手で更に乾燥するまで子牛を拭いてあげてください。
まとめ
子牛が生まれたらまずやるべきことについて解説しました。
- 呼吸の確認と確保をする
- 首を自力で持ち上げていればとりあえず大丈夫
- 横臥より伏臥体勢
- 人工呼吸器は吸引3回、あとは断続的に吹込
- タオルでよく拭き体温を保持する
- 母牛がなめるよりタオルの方が確実で早い
- ある程度のところで母牛に預けてもOK
今回もなにか参考になれば幸いです。
ありがとうございました。
コメント