前回は分娩までの準備や分娩兆候について解説しました。
いざ分娩となると焦って引っ張りたくなりますが、ポイントを押さえて何をすべきか判断できるようになりましょう。
分娩開始
分娩がいよいよ近くなると母牛は落ち着かない様子で分娩房内を歩き回ります。
また、尻尾を挙げて時折踏ん張るように背中を丸めるようになります。
この状態になったらいよいよ”産気づいた”状態です。
破水を見逃さないようによく観察しましょう。
破水とは、胎児が浮かんでいる胎水を包む膜が破れて胎水が外陰部から流出することです。
牛床が汚れていると流れ出た胎水を見逃してしまうことになるので分娩房内はくれぐれもきれいに保ちましょう。
また、破水には2種類あります。
胎水のうち、尿膜が破れる第一破水と、羊膜(足胞)が破れる第二破水です。
産気づいてから第二破水までは経産牛で2~6時間、未経産牛では12時間ほどかかるといわれていますので、産気づいているからといってまだ慌てる必要はありません。
ちなみに、たまに羊膜が破れる(第二破水)ことなく、胎児が膜に包まれたまま娩出されることもあります。
そのときは生まれた子牛が呼吸できるよう急いで膜を破ってあげましょう。
助産すべきか、せざるべきか…
破水後、時間がかかりすぎると母牛も胎児も消耗してきてしまいます。
必要に応じて助産したり、獣医師を呼ぶことが求められます。
では、助産が必要なときとはどんな状況でしょうか?
分娩できない主な原因として以下の場合が考えられます。
- 母牛の陣痛が弱くて胎児が押し出されない
- 母牛の産道が狭い
- 胎児の体が大きすぎて出られない
- 胎児の体勢が悪くて産道に引っかかっている
この中でも胎児の体勢については注意が必要です。
もし、頭が横を向いている、足が片方しか触れない、頭や体全体が旋回している、頭全体が触れないといった状態であればそのまま牽引するのは危険です。
胎児が”アンパンマンが空を飛ぶポーズ”で外を向いており、手を入れたときに頭の全周がくまなく触れるくらいの産道の広さがあれば牽引で出すことは可能です。
上に挙げた4つのうち、どれが原因で胎児が出てこないのか判断でき、なおかつ自分で対処できる場合は自ら助産してあげましょう。
判断がつかない場合、自信がない場合には獣医師を呼ぶのが無難です。
朝でも夜でも遠慮なく呼びましょう。
また、これらの判断には外陰部に手を入れることが必須となります。
手を入れることに抵抗がある方は時間を基準に獣医師を呼ぶ目安とするといいと思います。
- 分娩予定日から7日(未経産牛なら5日)たったのに分娩兆候がない
- 産気づいてから6時間(未経産牛なら8時間)たったのに破水しない
- 第一破水してから2時間たったのに羊膜(足胞)がみえない
- 羊膜がみえてから、または第二破水してから1時間たったのに分娩しない
これらに該当する場合は獣医師に一度相談してみてください。
助産の仕方
- 牽引用バンドまたはチェーン、ハンドル
- 消毒液(パコマなど)入りのぬるま湯
- タオル(特に冬期間は必ず!)
- カウヘルパー(滑車):人手が少ない場合
- 人工呼吸器
助産をすると決めたらまずはこれらの道具を用意しましょう。
前回述べましたが、あらかじめ母牛の近くに用意しておきましょう。
切羽詰まった状況でカウヘルパーや人工呼吸器を用意するのは大変です。
消毒液に牽引バンドとハンドルを入れておき、外陰部を洗浄・消毒します。
両前足の副蹄の上にバンドをかけ牽引することになりますが、引っ張る前に胎児の体勢は再確認しましょう。
引っ張るときには大人の男性3人程度いれば充分な力がかかります。
逆に、これ以上の人数で引っ張ったり、この人数でカウヘルパーを使ったりすると力がかかり過ぎ、子牛の前足が骨折する可能性が大きくあがります。
重機を使って引っ張るなどもっての外です。
母牛の生命も危険にさらすことになります。
子牛を引っ張るときは後方やや下方向に力をかけます。
頭が外陰部でつっかえないように頭の向きを確認しながら引っ張りましょう。
母牛の陣痛に合わせて、というのが基本ですが、陣痛が弱い場合はあまり気にしなくてもいいです。
耳付近まで出たら以降は時間をかけないようにしましょう。
へその緒が切れて肺呼吸が始まっているのに、産道で胸が圧迫されて呼吸できない状態に陥っていることが多いからです。
頭が出ればたいてい体は出ます。
腹まで出れば呼吸が可能なのでそこまでは必死に引っ張りましょう。
逆に、鼻先しか見えなくて全く出る気配がないときは少し落ち着きましょう。
その時点でへその緒が切れることはほとんどないので、ひと呼吸おいて産道の状態を確認したり、不安であれば獣医師を呼んでください。
逆子の対処法
逆子とは、後足が手前、前足が奥の状態で分娩することです。
頭が逆さ(顎が上を向いている)状態は逆子とは言わないので注意しましょう。
逆子の場合は、以下の2点に注意してください。
- 腿まで出たら時間をかけない
- 頭を地面に落とさない
1つ目は、前述した通り、呼吸ができないためです。
ただし、逆子の場合は正常分娩の場合よりもシビアです。
というのも、逆子では正常分娩よりもへその緒が切れるタイミングが早く、顔が出るまで呼吸ができないからです。
人手はできるだけ集め、カウヘルパーや人工呼吸器の用意は必ずしましょう。
2つ目は、イメージしてもらえば分かるかと思いますが、通常よりも頭が高い位置から落下するためです。
母牛の腰の位置から、引っ張る力も加わって地面に落下します。
必死になって忘れがちですが、「もう出そう」というところで一人は体の受け止めに回りましょう。
まとめ
今回は分娩が始まってからの対処法を解説しました。
- 分娩の開始
- 落ち着かない様子や踏ん張る様子をみたら産気づいた状態
- 破水には2種類あり、第2破水からの何時間経ったか把握しておく
- 助産が必要か判断する
- 主な難産の原因は陣痛微弱・産道狭小・胎児過大・胎児失位
- 胎児が”アンパンマンが空を飛ぶときのポーズ”になっていれば牽引可能
- 自信がなければ獣医師を呼ぶのが無難
- 助産の方法
- 必要な道具はすぐ使えるように準備
- 強すぎる牽引は子牛と母牛を危険にさらす
- 耳まで出たら腹を出すまで時間をかけない
- 逆子の対処法
- 腿まで出たら全身が出るまで時間をかけない
- 頭を地面に落とさない
以上参考になれば幸いです。
ありがとうございました。
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