【出生子牛のケア後編】牛の分娩(お産)について、準備するものや経過、対処を解説

子牛
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今回は出生子牛のケアとして、以降の子牛の状態に大きく関与してくる初乳について解説します。

哺乳期や離乳期に問題になることの多い肺炎や下痢の原因の一つとして免疫力の低下があげられます。

初乳を飲まずに感染症と戦うのはノーガードでボクシングをするのと同じです。

子牛の健康や発育に大きな影響を与えます。

リッキングと同様、母牛任せにならないように気をつけましょう。

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初乳とは

初乳とは、分娩を終えた母牛が最初に出す母乳のことです。

分娩後24時間程度はこの初乳が出ているといわれています。

では、初乳と常乳(24時間以降に出てくる母乳)でどのような違いがあるのでしょうか。

初乳は免疫力のため、常乳は栄養のため

ざっくり言うと、初乳には常乳と同じ栄養補給としての側面に加え、免疫力強化のために与えるという側面を持っています。

初乳には免疫グロブリンという成分が含まれていて、それを子牛に飲ませることで母牛が持っている免疫を与えることができます。

出生したばかりの子牛は免疫をほとんど持っておらず、あらゆる菌やウイルスに対して無防備です。

初乳を飲めなかった子牛はその後、必ずといっていいほど感染症に苦しむことになります。

ちなみに人間の場合は母親のお腹の中でへその緒を介して免疫をもらえるので、牛ほど初乳の重要性は高くありません。

初乳を飲ませるタイミング

初乳は24時間以内に飲ませる必要があります。

なぜなら、母牛が初乳を出す期間がおよそ24時間であるの上、子牛の免疫グロブリンを吸収できる期間もまた24時間しかないからです。

さらに欲を言えば6時間以内には飲ませることが望ましいです。

というのも、吸収力は6時間をめどに大きく下がりはじめ、24時間で完全に吸収できなくなるからです。

子牛の吸収できる期間が過ぎるといくら初乳を飲ませても意味がありません。

丸一日経ってから初乳製剤を飲ませても、あまり意味がありません。

子牛が初乳を飲まないときは

哺乳欲の確認方法

子牛の哺乳欲(飲む意欲)の確認方法は簡単です。

子牛の口に指を入れてみると、哺乳欲があれば指に吸い付きます

出生してからすぐだと単に呼吸がまだ落ち着いていなかったり、分娩時の強いストレスから立ち直っていない場合も多いので、分娩後2時間くらいは哺乳欲がなくても焦らず待ってあげましょう。

それ以上経っても吸い付きが弱いようであれば以下のような対策を試してみるとよいでしょう。

とりあえず飲ませてみる

指を入れたときは反応が弱かったが哺乳びんで初乳を少し舐めさせたら哺乳欲がでてくる、ということもあります

反応が弱くても一度哺乳びんで初乳の味を覚えさせるのもよいでしょう。

しかし、無理に飲ませようとしても余計なストレスをあたえるだけです。

少し試してみて駄目ならもう少し待つ、くらいの心持ちで臨むのが良いと思います。

胎便を出す

胎便とは、胎児期の子牛の体内に滞留している便のことです。

出生後体外に排出されるオレンジ色かかったネバつく便が胎便です。

これが体内に残っていると哺乳欲が出にくいといわれており、これを胎便停滞といいます。

子牛の肛門に指を突っ込み、刺激してやったり、掻き出してやると哺乳欲が発現することが多いので試してみましょう。

獣医師に診てもらう

胎便停滞以外には、以下のような原因で哺乳欲が出ないことが多いです。

  • 難産による消耗や低酸素血症
  • 奇形等先天異常
  • 分娩後の事故(母牛から踏まれる など)

実は、獣医師が直接的に解決できる原因というのはあまり多くありません。

しかし、原因を特定することは、その後に生まれてくる子牛のためにどのような対策が必要か考える上で重要です。

できるだけ獣医師にも診てもらい、原因を追求しましょう。

また、対症療法的にブドウ糖を静脈内に投与すると哺乳欲を示すようになるという報告もあります。

初乳を飲むためのエネルギーをはじめに補給してあげるイメージです。

必要かどうかは獣医師の判断ですが、なかなか哺乳欲が出ないときには試しに頼んでみてもいいかも知れません。

分娩時のリッキングも大事

分娩時のリッキングは前回解説したように、体内の血液循環を促進し子牛の活力を向上させます。

それと同時に腸内での初乳吸収を促し、より効率的に免疫賦活化を行う助けとなります。

母牛があまり舐めようとしない場合はより入念に体をマッサージしてあげましょう。

ストマックチューブを使用するタイミングと注意点

以上の対処を行ったにもかかわらず初乳が飲めない場合はストマックチューブを使うことになります。

ストマックチューブとは、胃に直接ミルクを流し込む道具のことです。

どうしても哺乳欲が出ない子牛に無理やりミルクを飲ませる最後の手段です。

報告では、自力で哺乳した方が初乳の吸収効率はよいとされていますが、効率以前に全く飲めないのであれば意味がありません。必要な状況では積極的に使いましょう。

ただ同時に、ストマックチューブはやはりあくまでも最後の手段です。

できるだけ根気強く自力で飲めるように努力するようにしてください。

以下にストマックチューブを使う条件を列挙しておきます。参考にしてください。

  • 出生後12時間以上経っている
  • 胎便を出しても、ブドウ糖を注射しても哺乳欲が出ない
  • 哺乳びんで飲むか試したが飲みたがらない

これらを満たしている場合にはストマックチューブを使う価値はあります。

ストマックチューブの使い方に慣れていない、そもそも持っていない方は獣医師を頼って投与してもらいましょう。

母牛が初乳を飲ませないときは

母牛の中には、子牛が初乳を飲みたがっているにも関わらず、足を上げたり、尻を振ったりして飲ませようとしない牛がいます。

これは初産の牛に顕著で、母乳を吸われることに慣れないうちは多くの牛が飲ませようとしません。

このときすぐに、「この牛は飲ませない牛だ」と諦めて人工哺乳に切り替えてしまう方もいますが、少しの工夫で飲ませるようになることもあるので、以下のような方法を試してみてください。

実際に母牛が自分から飲ませるようになるまで2~3日かかる場合もありますが、その後の人工哺乳の手間を考えれば、やってみる価値はあると思います。

猿ぐつわ法

猿ぐつわのように、母牛の口にロープなどを噛ませて乳房の方から注意をそらす方法です。

具体的には、母牛を保定後、口にロープの中腹を噛ませ、両端を耳の後で結ぶだけです。

これだけで母牛はロープが気になって噛み噛みしています。その隙に子牛を乳房まで誘導し母乳を飲ませましょう。

飲ませ終わったらすぐにロープを放してあげましょう。

前足吊り上げ法

猿ぐつわをしても母乳を飲ませたがらない手強い母牛にはこちらの方が安全で確実かもしれません。

母牛の頭を保定したら前足の副蹄直下(直上でも可)にロープをかけ、頭を繋いでいる馬栓棒に引き寄せます。

ポイントは暴れても地面に足がつかないように、かといって上げすぎないように、ということです。

犬がお手をしているような体勢になるようにロープの長さを調整します。

こちらも足を上げた状態で母乳を飲むように子牛を誘導してあげましょう。

猿ぐつわ法と違うのは、母牛が嫌がったとしても動き自体を拘束しているので蹴られる心配が(ほぼ)ないということです。

まとめ

今回は初乳の与え方について解説しました。

  • 初乳とは
    • 免疫力を子牛に与えるための特別な母乳
    • 出生後24時間以内、できれば6時間以内に飲ませる
  • 初乳を飲まないときの対処法
    • とりあえず飲ませてみる
    • 胎便を出す
    • 獣医師にブドウ糖を投与してもらう
    • 最終手段はストマックチューブ
  • 母牛が飲ませたがらないときは
    • 猿ぐつわで気をそらす
    • 前足を挙げさせて動きを制限する

今回もなにか参考になれば幸いです。

ありがとうございました。

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