【子牛の下痢治療】補液の種類と必要量をざっくり解説

子牛
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前回は子牛の下痢の原因と補液の目的について解説しました。

子牛の下痢の原因

下痢をしていてもそれが病気の本体とは限らない。

  • 下痢
    • 食餌性
      • 母乳性(代用乳含む)
      • 異常発酵
      • 消化吸収不良
    • 感染性
      • ウイルス性
      • 細菌性
      • 寄生虫性
  • カゼによる発熱
  • 熱中症 など
補液の目的

補液の目的は3つ

  • 脱水の補正
    • 水だけでなく、電解質も補充する
  • 酸塩基平衡の補正
    • 下痢ではアシドーシスになる
  • 栄養補給

今回はこのうち補液について、どのような補液剤を、どのくらい、どのような根拠で使っているのか解説したいと思います。

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重症度の判断

まずは対処すべき相手を知りましょう。繰り返しになりますが、補液の目的は脱水の補正、酸塩基平衡の補正、栄養補給です。

下痢をしている子牛の重症度を把握するにはいくつかのチェックポイントがあります。

自分が診断に役立てている項目をまずは紹介したいと思います。

重症度を判断するチェックポイント

下痢症状の重症度
  • 横臥・昏睡
  • 口腔内の乾燥・冷感
  • 起立不能

―――これより上は緊急対応が必要―――

  • 鼻の乾燥
  • 起立困難
  • 眼球陥没
  • 立っているときのふらつき

―――これより上は点滴が必要―――

  • 耳の冷感
  • 皮膚弾力の低下

※ 皮膚弾力は、首側面の皮膚をつまんで引っ張ったり、上まぶたをつまんで離したときの皮膚の戻り方をみます。

重症になるほど上に書いた症状がみられることが多くなります。

自分の中では、ふらつきがみられるようであれば静脈内補液(点滴)をし、皮膚の弾力が低下している程度であれば経口補液してもらうように指示します。農家さんによっては皮下注射によって対応する方もいます。

経口補液だけで対応可能な状況とは?

経口補液でできるのは、補液の3つの目的のうち脱水の補正と栄養補給です。酸塩基平衡の補正はできません。

つまり、酸塩基平衡の異常が強くない場合は経口補液で充分対応かのうということになります。ただし、強い脱水により自力で飲水ができないような状態の場合は当然点滴が必要になります。

主な補液剤の紹介

補液剤にはかなりの種類がありますが、今回は下痢で使われることの多いいくつかを紹介したいと思います。

生理食塩水

塩化ナトリウムが体液と同等の濃度(等張)で入った補液剤です。入れた分だけ血液循環に回るので脱水の補正にもっとも使いやすく原始的な補液剤といえます。

一方で酸塩基平衡への影響はというと、アシドーシスを補正する力はないため役に立ちません。

高張食塩水

生理食塩水と同じく塩化ナトリウムの入った補液剤です。高張の名の通り体液よりも濃度が高いため、血管の外の細胞から血管内へ水を引き込むことができます。入れた以上に水が血液循環に回る一方で、血管外の細胞で脱水を起こすため使用には注意が必要です。子牛の下痢を治療する際は少量使用すると良いと思います。

生理食塩水と同様、酸塩基平衡へは影響しません。

酢酸リンゲル

生理食塩水と同様、入れた分だけ脱水を改善できます。

”酢酸”と名がついているためアシドーシスを悪化させそうですが、実はアシドーシスを改善する(アルカリ側へ補正する)力があります。また、酸塩基平衡が正常の場合、逆にアルカローシスにしてしまう(医原性アルカローシス)リスクが低いので安心して使えます。

7%重曹注

高張液のため入れた以上に水を血管内に循環させることができます。しかし、7%重曹の本来の目的は脱水の補正ではなく、酸塩基平衡異常(アシドーシス)の補正です。

重炭酸イオン(HCO3ー)が含まれており、血液をアルカリ化する機能があります。ただし、強いアルカリ化作用があるため過剰投与すると医原性アルカローシスの原因となります。

等張重曹注

等張重曹注は生理食塩水と7%重曹注の特徴を持った補液剤といえます。

血液と等張のナトリウムが入っており脱水を補正する一方、重炭酸イオンが補充されます。重炭酸イオンは7%重曹注と比べ低濃度であり、アシドーシスを補正する力は7%重曹注より弱く、酢酸リンゲルよりも強いです。

ブドウ糖液

ブドウ糖液はその名のとおり糖分の補給に使われ、脱水の解消やアシドーシスの補正にはあまり役に立ちません。しかし血糖値上昇により、子牛の活力を復活させるために一役買っています。

必要な補液量

脱水の程度とアシドーシスの重症度はおおむね相関します。

つまり、脱水がひどければアシドーシスもかなり強いだろうと想像がつきます。

下痢症状の重症度
  • 横臥・昏睡
  • 口腔内の乾燥・冷感 ―――15%脱水・BE -20相当
  • 起立不能

―――これより上は緊急対応が必要―――

  • 鼻の乾燥
  • 起立困難 ―――10%脱水・BE -10相当
  • 眼球陥没
  • 立っているときのふらつき

―――これより上は点滴が必要―――

  • 耳の冷感 ―――5%脱水・BE 0~-5相当
  • 皮膚弾力の低下

さきほどの重症度の一覧に定量的な数値の目安を追加しました。言葉の意味は後述するのでここではわからなくて問題ありません。

該当する症状がみられたとき、右に書かれた程度の脱水とアシドーシスが起こっていると推察されます。もちろん、血液検査をすれば正確に知ることができますが、現場でさしあたっての対処をするときはこのように見当付けをします。

では、これらに対し、どのように補液の種類と量を検討していくのでしょうか。

必要な水の量

ここでの”水”とは、血液と等張の液をいいます。

実際にはもう少し複雑な計算式に当てはめて必要量を算出するのですが、今回はざっくり必要な量をお示しします。

さきほどの一覧に載っていた○○%脱水とは、体の中の水分(体重の約60%)のうち、どのくらい不足しているかを示しています。

例:体重50 kgで10%脱水なら、50 kg × 60% × 10% = 3 kgの水分不足となります。

つまり、そのような子牛がいたら3リットルくらい点滴してもらえばOK、ということになりそうですが、実際にはそこまでの量は必要ありません。

なぜなら、5%脱水程度まで戻ればあとは自分で水を飲んで回復することができるからです。

例のような子牛がいたとき、私の場合は1.5リットルほど点滴をして様子見し、おしっこをするようならそこで補液終了とします。

ちなみに排尿は脱水の改善のサインなので、おしっこするように祈りながら私は点滴しています。

また、脱水が強い場合には血液中のナトリウムとクロールがより不足することが多いので高張食塩水を少量使用してこれらを補充します。

必要な塩基(重炭酸イオン)の量

症状の一覧で、BEという言葉がありました。

BE(Base Excess)とはどのくらいアルカローシスになっているかの指標です。ここでは数値がマイナスなのでアシドーシスの程度を表しています。

アシドーシスを補正するにはこの数値が0になることを目指します。これも水分不足の計算したときと同様、体重と60%をかけます。

例:体重50 kgでBE -10のとき、50 kg × -10 × 60% = -300 となります。

この-300という数字、”塩基要求量”というものなのですが、要するにアシドーシスを補正するのに必要な”パワー”と思ってもらって構いません。

この”パワー”、500 mLボトルでは7%重曹注には+400、等張重曹注には+80くらい含まれています。

つまり、例の子牛の場合、7%重曹注で400 mLくらい入れればアシドーシスを補正できるということになります。

ただし、補液剤の紹介でも触れたとおり、重曹には過剰投与による副作用のリスクがあります。重曹を安全な範囲内で入れ、のこりは酢酸リンゲルで補充するのが無難です。

まとめ

下痢している子牛に補液するときに獣医師は、

  1. 重症度を推定し、
  2. 補液剤を選び、
  3. 必要量を計算する。

ざっくりこのようなステップで考えています。

何かの参考になれば嬉しいです。

今回の記事も自分の主観や考えが含まれています。獣医師によって考え方は異なりますのであしからず。

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