【肺炎の治療】注意すべき薬剤耐性菌について

子牛
スポンサーリンク

こんにちは、カウベテです。

今回は、肺炎の治療に悪影響を与える薬剤耐性菌の話題です。

獣医師はもちろんですが、農家さんでも知識があれば今後の肺炎との付き合い方が変わるかもしれません。

特に、ちょっとしたカゼ引きであれば自家治療で対応するよ、という農家さんは必ず押さえておきたい内容です。

自分の牛を守るためにも、最後まで読んでいただけると幸いです。

スポンサーリンク

薬剤耐性菌とは

まず、薬剤耐性菌とは抗生剤(抗菌剤・抗菌薬・抗生物質)に対して耐性を持つ菌のことです。

ときどき誤解する方もいますが、特定の菌の種類を指す名称ではありません。

薬剤への耐性とは、あらゆる菌が絶えず行っている遺伝子の変異によって発生します。

そのため、どんな種類の菌であっても、条件によっては薬剤に対して耐性を持ち得ます。

そして、抗生剤の使い方ひとつで耐性菌の発生を助長してしまうことも、逆に抑えることもできます。

今回の記事では、

  1. 耐性菌の危険性
  2. 耐性菌発生の誘因
  3. 耐性菌を作らないための治療

これら3つの内容について解説したいと思います。

それでは本題に参りましょう。

耐性菌の危険性

まずはなぜ薬剤耐性菌が危険なのかについて解説します。

大きく分けて、牛に対する危険性、人に対する危険性に分けてそれぞれ解説したいと思います。

牛に対する危険性

まずは牛に対してどのような脅威となるのか考えてみましょう。

牛に対する危険性
  • 肺炎の重症化のリスク
  • 同居牛への感染リスク
  • 出荷先でのトラブルのリスク

まずは肺炎の重症化リスクについて。

肺炎の重症化は、特に子牛にとって、非常に深刻な問題となります。

慢性肺炎となってしまった子牛には、増体不良、治療費の増大などの問題が伴います。

乳牛では、育成期に肺炎となると泌乳能力が低下することもすでに知られています。

また、同居牛への感染により治療の難しい肺炎が牛舎全体に広がることもあります。

慢性肺炎の牛が出荷などによっていなくなったとしても、耐性菌は他の牛や環境中にとどまり、残った牛たちの治療をも難しくさせます。

更に繁殖農家さんなどで生体を出荷する場合、問題は農場内のみにとどまらず、出荷先でトラブルになることもあります。

まず肺炎の牛を買いたがる肥育農家さんはあまりいないので、そもそも販売価格は伸びません。

また、出荷先に難治性肺炎を引き起こす細菌を持ち込んだとなれば、大きな損害を与えることになります。

場合によってはクレーム対象となり、返金を求められることにもなりかねません。

耐性菌を蔓延させると自身の農場だけでなく、畜産業界全体に拡散させるくらいの意識が必要です。

人に対する危険性

薬剤耐性菌の人に対するリスクとしては、人の肺炎菌にも耐性をもたらすという説が挙げられます。

私の調べた限りでは、これはまだ確定した事実というわけではなく諸説あるようです。

しかし日本国内では高齢化・長寿化を背景に、肺炎を原因として死亡する人の割合は増加傾向にあります。

人の肺炎を引き起こす菌においても薬剤耐性が大きな問題となっており、耐性菌が病院内で蔓延することも珍しくありません。

これらのことから、畜産業界における抗生剤乱用への締め付けが強くなりつつあるようです。

私は、このトレンドが今後も強まると考えています。

問題が大きくなる前に、抗生剤の適正使用を習得しておきたいところです。

耐性菌発生の誘因

抗生剤の長期投与

抗生剤の使いすぎが耐性菌を作る、というのは耳にしたこともあるのではないでしょうか。

実際、人の医療でも長期にわたる抗生剤の使用は推奨されていません。

具体的には、

  • 症状が回復してからもしばらく抗生剤を使い続ける
  • そもそも治療の必要がない牛に対して抗生剤を使用する

これら2つのパターンがあると思います。

いずれも、「再発しないように」、「肺炎にならないように」といった、良かれと思っての行動だと思います。

しかし、耐性菌の発生を抑えるという意味ではいい手とは言えません。

なぜなら、細菌は抗生剤に暴露される期間が長いほど耐性化しやすいからです。

無菌室のような場所で飼われた牛には抗生剤を使い続けても問題ないですが、牛舎では常に細菌が牛の体内に侵入し続けます。

そのような環境で抗生剤を使えば、牛体内では絶えず細菌と抗生剤の接触が起こり、耐性菌を発生させやすくなります。

短期間の投与で決着をつけることが最良であり、そのためには有効な抗生剤を使用する必要があるということも見落としてはいけません。

抗生剤の中途半端な用法

抗生剤を使いすぎるのも問題ですが、中途半端な使い方をするのもよくありません。

具体的には、

  • 抗生剤を使って翌日には調子が良さそうだから使用を中止する
  • もったいないので添付文書に書いてある半分の用量で使用する

このような使い方です。

これらの使い方の問題点は、完全に死なない程度に抗生剤に暴露されると耐性化しやすいという細菌の特徴に起因します。

このとき生き残った細菌はRPGで言えば、敵のボスに村を焼かれながらも命からがら逃げ出す主人公みたいなものです。

いずれ強くなって仲間を連れ、ボスにリベンジすることになります。

我々(敵)にできることははじめの段階で細菌を根絶やしにすることです。

よくある最後に倒される敵のボスみたいにならないように気をつけましょう。

耐性菌を作らないために

ここまで解説した耐性菌を作ってしまう治療の逆をすることが重要です。

順番に見ていきましょう。

早期発見、早期治療

耐性菌の発生を抑えるという意味でも、やはり早期発見と早期治療は外せません。

というのも、さきほども解説したとおり、細菌と抗生剤が接触した上で殺しきれないという場合に耐性化は進みます。

初期の治療が遅れるとその分、体内で菌が増殖しており、全てを殺すには時間がかかります。

その時間が耐性菌を作る時間になってしまうということです。

常に牛の状態を観察し、スキあらば体温を測るくらいの心持ちで接しましょう。

有効な抗生剤の使用

どれほど早く異常を発見したところで、効かない抗生剤の使用ほど無駄なことはありません

鼻腔スワブなどの検体から自農場で存在している細菌と有効な抗生剤について知って置くことが重要です。

定期的な検査を行い、治療効果が弱まっていると感じたときにはすぐに検査してもらえるような状態にしておきたいものです。

各都道府県の家畜保健衛生所や検査機関、製薬メーカーなどで検査してもらえるので頼んでみると良いでしょう。

必要十分な治療期間

必要十分とはつまり、中途半端な治療をしない、無駄な治療もしないということです。

有効な抗生剤を、十分な投与量で、なるべく短い期間で使用するというのが原則になります。

しかし、どのレベルまで治療を施せば十分かなんて、本当のところは誰にも分かりません。

参考までに、人の医療で治療中止の目安とされている項目を紹介します。

人医療で肺炎の抗生剤投与終了の目安
  • 解熱(目安:37℃以下)
  • 白血球数増加の改善(目安:正常化)
  • CRPの改善(目安:最高値の30%以下への低下)
  • 胸部X線陰影の明らかな改善

出典:成人市中肺炎診療ガイドライン

※CRP(C反応性タンパク):体内の組織の傷害や炎症によって増加するタンパク質

これらのうち、3項目以上を満たすことが抗生剤の治療終了の目安になるそうです。

しかし、牛の医療においてはCRPや胸部X線を診断に使うことはほとんどありません。

白血球数すら治療中に1度も検査しないことがほとんどという実情です。

やはり現状では、解熱食欲聴診などを中心に判断するほかなさそうです。

まとめ

ここまでをまとめます。

今回は肺炎の治療において大きな障壁となる薬剤耐性菌について解説しました。

薬剤耐性菌の危険性
  • 牛への危険性
    • 肺炎の重症化リスク
    • 同居牛への感染リスク
    • 他農場でのトラブルリスク
  • 人への危険性
    • 人の肺炎原因菌が耐性化するリスク

耐性菌発生の誘因
  • 抗生剤の長期にわたる投与
    • 症状が回復してからもしばらく抗生剤を使い続ける
    • 治療の必要がない牛に対して抗生剤を使用する
  • 抗生剤の中途半端な用法
    • 抗生剤を使って翌日には調子が良さそうだから使用を中止する
    • 添付文書に書いてある半分の用量で使用する

耐性菌を発生させないための治療
  • 早期発見・早期治療
    • 発見が遅れると治療期間が長引く
  • 有効な抗生剤の使用
    • 無効な抗生剤を使う時間がもったいない
  • 必要十分な治療期間
    • 十分な投与量を短い期間で使用し早期決着を

薬剤耐性菌についてはまだ語りきれていないところもありますが、長くなりすぎるので機会があればまた解説したいと思います。

難しい話もありましたが、「耐性菌を発生させないための治療」のパートだけでも覚えていただけると幸いです。

今回は以上です。ありがとうございました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました