こんにちは、カウベテです。
突然ですが、皆さんは獣医師のお金について考えたことがありますか?
診療してもらったときの報酬がどのくらいで、どのような流れで獣医師がもらっているか、知らない方も多いのではないでしょうか。
今回は家畜共済を利用していることを前提に、獣医師が牛の診療をしたとき、どのような流れで診療費を得ているかを解説します。
そして、ともすれば農家さんと獣医師の利害は相反するという話と、獣医師とどう付き合うべきかについて話をしたいと思います。
少し毒のある言い方もあると思いますが、最後に私なりの考えも添えていますので、最後までお付き合いいただければ幸いです。
それでは参りましょう。
獣医師が診療して報酬をもらう仕組み
まずは獣医師が診療の報酬をどのようにもらっているかについて解説します。
獣医師は農業共済組合(NOSAI)と指定獣医師契約というものをします。
この契約とは、獣医師が診療した際にその診療費をNOSAIから受け取るという契約です。
もう少し詳しく解説しましょう。
本来、診療費は農家から獣医に支払われ、その費用がNOSAIから農家へ共済金の形で支払われます。(農家→獣医、NOSAI→農家)
このやり取りを省略してNOSAI→獣医とするのが指定獣医師契約です。
この診療費は、以前解説した家畜共済のB点を消費して支払われます。そのため診療費は農家、国、NOSAIの三者が分け合って負担しているとも言えます。
よくわからないという方はこちらの記事もご覧ください。
ちなみに診療費は何をしたら〇〇円、どの薬を使ったら〇〇円、とすべて国から決められています。
たとえば、筋肉内注射をしたら約700円、抗生剤のバイトリルを5mL使ったら約480円といった具合です。
獣医師は使用した薬品や消耗品などの経費を差し引いて自身の利益とします。
農家と獣医師の利害が相反する?
次に、農家と獣医師の利害が相反するという話をしたいと思います。
利害が相反するとはつまり、農家が得をすると獣医が損をする、農家が損をすると獣医が得をするという状況です。
このように話をしてもあまりピンと来ないかもしれません。
農家は具合の悪い牛を治療してもらい、獣医師はその対価を得るという構図は、どこにも問題ないように思えます。
しかし実際には、無意識に、または意図的に、獣医師は自身の利益と農家の利益を天秤にかける場面があります。
ここからは、農家と獣医師の利害相反により起こる2つのケースを紹介します。
ケース:病気を本気で予防する気になれない
前述の通り、獣医師は牛の病気を”治療”することで報酬が得られます。
つまり、病気のない状態にしてしまうと獣医師は自分の収入源を失うことになります。
ほとんどの獣医師は農家に病気の予防を勧めますが、実際は病気を減らすことが自分の首を絞めると知っています。
もちろんすべての獣医師が予防に本気で取り組んでいないというつもりはありません。私の感覚ではむしろ、必死に取り組んでいる先生の方がよほど多いと思います。
共済制度の中には損害防止の事業も数多くあり、そこから報酬を得ることもできますが、やはり治療に対する報酬には遠く及びません。
制度全体としては、予防活動にブレーキをかける方向に力が働きやすいと言えます。
ケース:診療していない架空のカルテを作成する
これは最悪のケースですが、ときどき耳にする事例でもあります。
先ほどの解説の通り、診療をしたカルテはNOSAIが審査し、問題なければ診療費が獣医師に支払われます。
つまり、農家側でカルテを目にすることはほとんどないということです。
同時に、NOSAI側も実際に治療をしているのか農場でチェックする術はありません。
これを利用して、診療してもいないのにカルテを作成して、NOSAIに提出することができてしまいます。
これはもちろん犯罪であり、発覚すれば刑事事件に発展するでしょう。
ちなみにここまで紹介したような事例は、NOSAI診療所のような大きな組織ほど起こりにくく、個人開業などの小さな組織では起こりやすい傾向にあります。
というのも、大きな組織ほど内部での監視体制が確立しており、給与で仕事をするため不正をする動機がないからです。
獣医師との付き合い方
ここまでネガティブな話ばかりで嫌になってしまったのではないでしょうか。
ここからは獣医師との付き合い方について3つの考え方を紹介します。
ぜひ前向きな気持で今後の参考にしていただければと思います。
適切な距離を保とう
いきなり後ろ向きな助言で申し訳ないですが、ここは外せません。
相手が誰であれ、信用することは大事なことですが、完全に信用しきってしまうのは危険なことです。
具体的には、定期的に診療費が適切な金額になっていることを確認しましょう。
現在は制度改正により、診療費の1割が農家負担として直接請求されるようになりました。
この金額をチェックして、不自然な点があれば遠慮なく獣医師本人やNOSAIに問い合わせてみることをおすすめします。
獣医師も金額をちゃんとチェックしている農家だと思えば、変な請求はできません。
セカンドオピニオンに耳を傾けよう
セカンドオピニオンとは、直訳で2番目の意見、つまり他の獣医師の意見も聞こうという意味です。
普段来てくれているのがNOSAI所属の獣医師であれば、診療所の他の先生に聞くのが手っ取り早く済む方法です。
個人開業の先生に診てもらっている農場では、近くを回っている先生やコンサルタントをしている先生に聞くのが確実です。
効果的な予防策や、ときには経営についても聞いてみるといいと思います。
ここで大事なのは、担当の獣医さんの能力や姿勢を疑うわけではなく、新たな視点を提供してもらおうという姿勢で耳を傾けるということです。
特に、獣医師に限らず農場のコンサルタントをしている人はお金の話に明るいので、彼らの意見は参考になると思います。
農家と獣医の利害を一致させよう
これは獣医師との関係を根本から見直さなくてはならないので難易度が高い方法です。
農家の利益(病気の予防)が獣医師の利益(治療することでもらえる治療費)と一致しないという話をしました。
利害を一致させるためには、病気を予防することで獣医師にもメリットがある仕組みにする必要があります。
たとえば、牛の死亡数に応じたボーナスを出す、一定の繁殖成績をクリアしたらお祝いをする、などです。
必ずしもお金を絡ませる必要はなく、お礼の言葉や一席設けるなど、精神的な報酬を得られるだけでも、獣医師のモチベーションにつながると思います。少なくとも、私なら嬉しいです笑
まとめ
今回は、家畜共済で獣医師が診療費をもらう流れと、農家と獣医師の利害が相反することがあるという話、より良い獣医師との付き合い方についてお話しました。
- 獣医師はNOSAIと指定獣医師契約を結ぶ
- 獣医師はカルテをNOSAIに提出することで、
- 農家→獣医師、NOSAI→農家という診療費の流れを
- NOSAI→獣医師という流れに省略する
- 農家と獣医師の利害相反により起こる現象
- 本気で病気を予防する気になれない
- 架空のカルテを作成する
- 獣医師との付き合い方
- 適切な距離を保とう
- セカンドオピニオンに耳を傾けよう
- 農家と獣医師の利害を一致させよう
最後に、ここまでの話で
「獣医って悪いこと考えてるんだな!」とか、
「うちに来る獣医さんはちゃんとした人だ、お前とは違う!」とか、
「共済批判かよ!」とか、
いろいろなお叱りを受けてしまいそうです。
しかし私が言いたいのは、現状そのような仕組みになっているということだけです。
家畜共済自体は、損害の出てしまった人をみんなからの援助によって助ける、という優れた仕組みです。ただ制度上、病気の予防という意味では力を入れにくい側面もあります。
相互扶助と予防活動を両立させるのは難しいことです。
今回の記事に共済への批判の意味合いはありませんのでご承知おきください。
もう一つ強調したいのは、その中で報酬に直接結びつく治療よりも、予防や経営改善に本気で取り組んでくれるのは間違いなく良い獣医さんだということです。
ぜひ、そのような獣医師が報われる状況を作っていただければ私も嬉しいです。
…変なところに着地したような気がしますが、このあたりで終わりたいと思います。
今日も何かの参考になれば幸いです。
ありがとうございました。
コメント