繁殖管理に頭を抱える農家さんは本当に多く、獣医師もまた、その指導にとても悩んでいます。
「発情が来ない」「発情を見つけられない」「種付けしても妊娠しない」「卵胞嚢腫が治らない」などなど・・・。これらの悩みにはほぼ例外なく飼料設計が深く関わっています。
今回からは繁殖牛の飼料設計における超基本である可消化養分総量(TDN)と粗タンパク質(CP)についてと、それらを管理する上で非常に役立つソフト、「かつどんくんCP」について紹介したいと思います。
TDNとは?
可消化養分総量(TDN)とは、その名のとおりですが”牛が消化することのできる栄養分の総量”のことです。
平たく言い直せば、カロリー、エネルギーの合計のことだと思ってください。
飼料の中にはタンパク質や炭水化物、脂質などが含まれていますが、これらはすべてエネルギーに変換することができます。そのエネルギーの総和がTDNということです。ただし、名前に”可消化”と入っているとおり、消化できない部分は除きます。
TDNが不足すると…
TDNが不足している場合、母牛はエネルギー不足に陥ります。
もし、子牛に母乳を飲ませている牛の場合、エネルギーが足りないと単純に母乳の出が悪くなります。もしくは、体脂肪からエネルギーを動員させ、身を削って母乳を出すことになりますが、その場合、2つの問題が発生します。
ひとつ目の問題は母乳の成分異常です。体脂肪由来のため、母乳の脂肪分が多くなり、子牛が消化できずに下痢をするという現象がしばしば起こります。
ふたつ目の問題は発情が来ないということです。発情が来るためにもエネルギーが必要ですが、エネルギーは発情のためよりも体の維持や泌乳のために優先的に使われることが知られています。つまり、体の維持や泌乳のためのエネルギーさえ足りないのに、発情のためにエネルギーは使えないということです。このエネルギー不足により発情の周期がまわらなくなっている状態を卵巣静止と呼びます。
TDNが過剰だと…
TDNの過剰な状況は想像に難くないのではないでしょうか。そうです、太ります。では太ってしまうとどのような問題が発生するのでしょうか。
太った牛群では卵胞嚢腫の発生率が大きく上がります。これはTDN過剰の問題というよりも、後述するCPの過剰に関連しているかもしれません。
また、これは獣医師の腕の問題もありますが、直腸検査をしたときの診断のしにくさも問題です。今では超音波検査もできますが、エコーを持たない獣医師や授精師さんには迷惑がかかります。
いずれにしても適正なBCS(ボディコンディションスコア)を維持するために、TDNの最適化が必要です。
CPとは?
粗タンパク質(CP)とは、飼料中に含まれるタンパク質の総量と認識しておけばOKです。タンパク質は牛の体を組成する他、母乳の成分でもあり、消化管内に生息する微生物の貴重な栄養源となります。
以下、CPの不足と過剰がどのように繁殖へ影響するのか説明したいと思います。
CPが不足すると…
CPが不足すると、発情の発見が難しくなると言われています。
私も経験があるのですが、直腸検査では正常の発情周期がまわっているのに、発情の当日になっても徴候がみられないということです。いわゆる鈍性発情の状態です。
この状態で種付けをしてもなかなか妊娠せず、次回の発情も見つけられないので妊娠鑑定のときに空胎と判明する。こうなると非常に厄介です。妊娠していなくとも、次回発情を発見できれば21日目で次の種付けをできますが、妊娠鑑定までわからないとなると妊娠鑑定まで30日、すぐにPGで発情を誘起しても33日目で次の種付けとなります。この時間的コストは全体の空胎期間に大きな負担となります。
CPが過剰だと…
CPの過剰では、先ほども少し触れましたが、卵胞嚢腫の発生率が高まります。
卵胞嚢腫は大型化した卵胞が卵巣にとどまり、正常の発情周期が回らなくなる病気です。ホルモン剤などで治療しますが、飼料設計がCP過剰だとなかなか治りません。感覚としては、長期不受胎の原因の半数近い割合を占めているのではないでしょうか。牛群全体で卵胞嚢腫が大発生してしまった場合は早急に飼料設計を見直す必要があります。
まとめ
ここまでTDNとCPの過不足によってどのような問題が発生するか説明しました。まとめると以下のようになります。
次回はTDNやCPの実際の必要量や計算の仕方について説明したいと思います。
今回は以上です。ありがとうございました。
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