【人工哺乳その後】子牛の離乳、なぜ下痢が止まらないのか?

子牛
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子牛が下痢をする理由はたくさんあります。例えば消化不良、細菌感染や腸への物理的な刺激など。今回は、子牛が離乳するときに多い下痢の原因である消化不良と異常発酵(ルーメンアシドーシス)についての話題です。

今回は特に、和牛の人工哺乳をはじめた農家さんが必ず直面する離乳後の下痢について詳しく解説します。

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消化不良について

消化不良とは、その名のとおり子牛が配合飼料や乾草などの固形飼料を消化できないことによる下痢です。未消化物が腸の表面を刺激し蠕動運動を活発化することで下痢が発生します。

私の見解では、消化不良には2つのパターンがあると思っています。

まずひとつ目は子牛の消化能力が低いパターン。哺乳中や移行期にスターターをあまり食い込めなかった牛が離乳すると、第一胃の絨毛や細菌叢の発達が十分でなく固形飼料が入ってきたときに消化し切ることができません。

ふたつ目は、子牛の消化能力に対して大きすぎる消化負荷をかけているパターンです。どういうことかと言うと、子牛の消化能力は順調に発達しているのに、あまりにも消化しにくいものを与えてしまっているということです。具体的には、離乳直後に固いワラを与えている、まだ哺乳中なのに乾草を中心に与えている、といった具合です。

ちなみに消化のしやすさの順序は以下のとおりです。ここでは消化=発酵ととらえて差し支えありません。

消化(発酵)のしやすさ
  1. 代用乳(ミルク)
  2. 人工乳(スターター)
  3. 育成用配合飼料
  4. 乾草(2番草やオーツなど)
  5. 乾草(1番草)
  6. ワラ

※ミルクは基本的に第一胃へ流入しないので発酵はしません

ひとつ目とふたつ目、どちらも結果としては同じ消化不良なのですが、どちらの状態かによって改善すべきポイントが変わってきます。つまり、哺乳中から変えるか、移行期を変えるかです。

異常発酵について

ルーメンアシドーシスとは、第一胃(ルーメン)内で起こる胃液の酸性化(アシドーシス)のことです。簡単にいえば、発酵しやすく繊維の少ない(消化しやすい)ものをたくさん食べることで異常発酵が起こっている状態のことです。このとき第一胃内では酸を発生させる細菌が増殖し、胃内が酸性になるためルーメンアシドーシスとよばれています。

十分に発達している第一胃には十分な繊維が必要です。与えていないと、ルーメンアシドーシスの状態となります。実はこの状態から抜け出すのは意外と難しいです。というのも、下痢をしてしまうのは消化できていないものを与えているからだという先入観に囚われていると、消化しやすいスターターを増やしたり、繊維の豊富な乾草を減らしてしまいがちだからです。

こうなると、繊維の不足→ルーメンアシドーシス→下痢→消化しやすいものを!→更にルーメンアシドーシス→・・・のように負のループにハマってしまいます。実際このような例では、繊維分の豊富な1番牧草やワラの給与量を増やしてあげるのが正解です。

この他にも、第一胃内にミルクが流入すると、異常発酵(というより腐敗)が起こって胃内の環境が悪化するので危険です。ちなみにこのような状態をルミナードリンカーといい、ルーメンアシドーシスとは別の現象です。ルミナードリンカーの原因はバケツでのがぶ飲み哺乳、神経異常などが挙げられます。

これは私の経験論ですが、離乳の直前までミルクを少しずつ減らしてダラダラと与えていることがルミナードリンカーの原因となっていることもあるかもしれません。離乳するときに、5L→4L→3L→2L→1L→0.5Lと慎重すぎる漸減を行っている場合には鼓脹症などの第一胃異常を起こす牛が多いように思います。果たしてルミナードリンカーによる現象なのかは不明ですが、個人的にはおすすめしていません。

ここまでまとめ

子牛の能力に対する消化負荷が大きすぎたり、小さすぎたりすると下痢をします。

離乳後の下痢の原因
  • 消化負荷が大きすぎる
    • 子牛の消化能力の発達が遅い
    • 子牛の能力は月齢並だが、消化の悪いものを与えすぎ
  • 消化負荷が小さすぎる
    • 繊維分の不足
    • ルミナードリンカーになっている

消化不良と異常発酵の見分け方

これは私にも分かりません。しかし、いくつかのポイントを観察すれば予想することはできます。

便

6ヶ月齢以上になって未消化繊維が便に含まれているような牛はルーメンアシドーシスを疑ったほうが良いと思います。反芻を十分にしていない牛でよくみられます。どちらも繊維分の不足からくる現象なので見逃さないようよく観察しましょう。

発育段階

当たり前ですが、哺乳期に近いほど消化不良の可能性が高いです。哺乳期に第一胃で異常発酵を起こすような状況は考えにくいでしょう。

ただし、腸内の細菌叢が異常発酵を起こすことはよくあるので、注意が必要です。その場合、飼料の構成に問題があるというよりは、餌の腐敗や汚染環境が原因のことが多いかと思います。

餌の種類、割合

配合飼料が多ければルーメンアシドーシスになりやすいですし、乾草を多く与えていても繊維分の少ない乾草が多ければ同様です。

離乳期以降では、重量で配合飼料>乾草となっていればルーメンアシドーシスになっている可能性が高いと思います。

このとき注意してほしいのが、考えるべきは摂取量ということです。与えた量と食べた量が一致していない場合には注意が必要です。捨てた量にも気をつけましょう。

離乳の正しいやり方

”正しいやり方”と言っても、これは人によるとしか言いようがありません。農場によって環境が違いますし、すべての牛にあてはまる素晴らしい離乳方法というのは確立されていません。自身で試行錯誤することで徐々に丁度いい離乳法が見つかるはずです。

ただ、これではあまりにも無責任なので、離乳後の下痢に悩む農家さんでの実践で、うまくいく確率の高かった方法を書いておきます。

前提として、哺乳量は最大で8~10リットル(粉量で約1,200~1,500 g)/日、1日2回哺乳、離乳するまでハッチで飼育、哺乳中も水、スターター、少量の乾草を給与し続けており、約90日で完全に離乳する農家さんでの話です。状況の異なる農家さんでは少しアレンジしてもらう必要があるかもしれません。

4段階のステップに分けて離乳します。各ステップ1週間なので、完全離乳まで3週間、移動するまでに4週間かかります。

離乳の4ステップ

ステップ1:1回あたり哺乳量を5リットル→4リットルに減らす

ステップ2:1回あたり哺乳量を4リットル→3リットルに減らす

ステップ3:哺乳量は3リットルのまま哺乳回数を1回に減らす

ステップ4:完全離乳

ステップ3までにスターターと乾草をそれぞれ1 kg以上食べられるようになり、なおかつ下痢をしなくなっていることが目標です。食べる量が少ない、便が固まっていないなどの場合は完全離乳を遅らせることをおすすめしています。

スターターと乾草の量のバランスですが、できる限りスターターを先に増量することが望ましいとされています。ただし、子牛は草の方を食べたがりますので、乾草とスターターをうまく混合してスターターに慣れてもらうことが重要です。

また、離乳後に群飼する場合はすぐに移動せず、1週間ほど経過してから移動してください。

まとめ

離乳の失敗はその後の発育に大きな影響を与えます。自分なりの最適な離乳法を確立しましょう。

離乳を改善する3つのポイント

ポイント1:下痢をしている子牛を見つける

ポイント2:離乳の段階での失敗なのか、その前からの問題なのか考える

ポイント3:次の子牛ではどのように改善するかを考える

退屈な結論ですがこれを繰り返すことがよりよい子牛生産への近道だと思います。

今回は以上です。

ありがとうございました。

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